その昔、三菱商事の木材本部木材部に在籍し、原木(丸太)と住宅用資材の仕入れに関して大変お世話になった友人・吉國譲治氏。彼が5年ほど前に来和した際、受け取った名刺を見ると「公益財団法人ジョン万次郎国際草の根交流センター事務長」の肩書がありました。ジョン万次郎といえば、明治維新をまたいで日米で活躍した土佐の傑物。一体何をしているのかと尋ねてみると、彼の偉業に倣い日米の草の根交流を深めるため、1991年以来、毎年1回の交流会を両国交互に開催しているとのこと。そして「急で悪いが、次回大会を和歌山で開催できるよう動いてくれないか。」というのです。たしかに急な話で、和歌山県としての態勢もすぐには取れないだろうと考えた私は後日、和歌山での開催は無理だと回答しました。
それ以来、大会の話はしないまま吉國氏とは年に1・2回、食事やらゴルフやらでご一緒していたのですが、昨年会った際、彼はよもやま話のついでに「もう一度あの話、考えてみてくれないか。」とポツリ。次の大会を絶対に和歌山でやりたいということかと尋ねると「次の次は北海道で頼むつもり。その前にぜひ和歌山で。」と、是が非でも頼むといった表情です。そこまで言うなら「よし、なんとかしよう。」返事まで10日もらいたいと伝え、調整に取り掛かりました。
草の根交流とはいえ、話は日本とアメリカをつなぐ大仕事。和歌山での開催となれば、県の協力を取り付けることが不可欠です。私は早速、県の下副知事に面会を申し込み、大会の開催をお願いしました。すると副知事は「次朗さん、本気ですか。」と一言。私が「本気です。」とお答えすると「では先方と一度お会いしましょう。」と即断していただけました。
その後、財団と県の関係者、それに私も加わって折衝を重ね、兵庫県で開かれた2019年度大会の際は視察を行いました。視察の帰り、副知事が「これは性根を入れなければいけませんね。」とおっしゃったのを聞き、私も身が引き締まる思いになったことを憶えています。折衝の中で幾分勉強したとはいえ、ジョン万次郎はもちろん身近な存在ではありません。私は財団にお願いし、2冊の本を送ってもらいました。
『ジョン万次郎』中濱京(万次郎の直系5代目)著。
『中濱万次郎』中濱博(万次郎の直系4代目)著。
土佐に生まれた万次郎は漁師として貧しさに耐えながら暮らしていたが、ある日荒天で遭難。アメリカの捕鯨船に助けられ、その船員として働いた。アメリカ本土に渡った彼はオックスフォードなどで学び、卒業後、資金を貯めて日本に帰国。遭難から11年、ようやく帰郷を果たした彼は土佐藩に取り立てられ、アメリカで得た知識を日本に広めた・・・。
明治維新後、万次郎は開成学校(現在の東京大学)で英語を教えるわけですが、その視野の広さはまさにグローバルというべきもの。となれば、近年海外からの注目が高まっている和歌山に住む私たちにとって、彼を手本とし国際交流の輪を広げることは意義ある試みに違いありません。幸い、財団と県との事務的な折衝は順調に進んでいたので、私は県内での大会開催地を決めるための地ならしにあたることにしました。
そして。高野山、本宮大社、那智大社、速玉大社、和歌山城と関係する各自治体に大会の意義を伝える一方、仁坂知事には財団理事長との面談をお願いし・・・ていたところに、今般のコロナ禍です。折衝は一時中断となり、今年10月にフィラデルフィアで開かれる予定だった大会も延期もしくは中止することが決まりました。ただ和歌山大会を2021年6月に開催する方向性は変わっていません。私としては状況の好転を祈りつつ、自粛巣ごもり生活の中でジョン万次郎についての理解を深めておこうと思います。
よろずやジロー、きょうのひとこと。
一番になれる人はやはり違うネ・・・