日本で初めて実用化にこぎつけた当社の全自動プレカットシステム。最初の施工物件は東京都心・青山霊園に近い、建坪126坪に及ぶS林業の木造2階建てでした。土台ができあがり、柱を組み上げ始めた翌朝、電話が入りました。曰く「部材のサイズがどれも1ミリか2ミリほど違っていて建方が進まないと、棟梁が激怒している。」現場にはS林業と当社の役員がいるが埒が明かないとのこと。
私はすぐさま和歌山を発ち東京に向かいました。が、昼過ぎようやく到着した現場は異様な雰囲気に包まれていました。棟梁は朝から右手にノコギリを持ったまま一歩も動かないらしく、冬空のもと、その身体からは湯気が立ち上っています。彼を遠巻きに見つめる当社役員らもお手上げのようです。
当社のプレカットシステムによる物件第1号がいきなり遭遇した試練。私は大きく息をつき、棟梁のもとに向かいました。「和歌山から今到着しました。宮本です。」差し出した名刺を、棟梁は受け取ってすぐ地面にポイ。目を合わせてもくれません。みぞれ混じりの冷たい雨が降りしきるなか、ここで引き下がるわけにいかない私は、差していた傘を放り投げ、棟梁にただ頭を下げました。それから15分ほどそうしていたでしょうか。私の身体からも湯気が立ち上り始めた頃、棟梁が私の傘を拾い上げ、そっと差し掛けてくれたのです。私は棟梁と向かい合い、部材の不具合について謝罪しました。そして「4日の猶予をください、新しい材料をお持ちします。その間の補償はもちろんさせていただきます。」と申し上げました。すると棟梁は首を横に振り、「気持ちだけいただいておこう。材料はここにあるものを修正して使うから、あなたは和歌山に戻ってください。」そう話す棟梁の目からは私以上に涙が流れていました。
たかが1ミリ、されど1ミリ。完璧を自認していたシステムが、職人技には到達できていないことを教えてくれた棟梁。その日から早速、当社がシステムの修正に取り掛かったのはいうまでもありません。
よろずやジロー、きょうのひとこと。
感謝の涙。